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東京高等裁判所 昭和23年(ナ)5号 判決 1948年11月20日

原告

村岡重光

被告

東京都選挙管理委員会

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は昭和二十三年十月五日執行の東京都敎育委員会委員の選挙は無効とする。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求むと申立て、その請求の原因として陳述した事実の要旨は左の通りである。

即ち昭和二十三年十月五日執行の東京都敎育委員会委員の選挙に当つて原告は選挙人であると共にその候補者であつた。凡そ民主政治は各種選擧における投票が嚴正公平に行われることによつてその実を挙け得られるのであり、殊に敎育委員会委員の選挙の如きは最も公正に行われなければならぬのに拘らず前記選挙においてはその手続等に次に述べるような幾多不公正な点があつたのである。

(一)  経歴公報不渡の事実

経歴公報は唯一の普汎的公平なる投票參考資料である。然るに東京都中野区野方町一丁目六百十八番地弁護士日高理四郞外多数の選挙人に対してこれが配布のなかつたことは選挙手続の公正を欠くものである。

(二)  ポスター使用規則違反事実過大なる件

今次選挙に関しては、ポスターは(イ)候補者一人につき三百枚以内を使用することを得(ロ)特定大の各ポスターには選挙管理委員会の檢印あることを要す(ハ)同一建物につき一枚を限り取付くることを得との制限が定められていたに拘らず右の制限を破るもの頗る多く、殊に共産党候補者堀江邑一の如きは右制限に違反すること甚しく武藏野警察署管内だけでも八十余枚の無檢印ポスターが乱用される有様で原告は所轄警察署に注意したがその効無く、右暴状のまま投票は遂行せられた。共産党の此の種行爲により選挙全般に混乱を來たし、その公正を害された程度は推して知るべきである。

(三)  選挙法定費用超過者過多の風聞

本件選挙における法定の費用は十三万余円であつたがこれを超過する者多く、特に共産党は仝党候補者の爲め約百万円程費消したものの如くである。

(四)  各政党の候補者推薦に当つての党派的行動

敎育委員会委員の選挙については、その本來の目的に鑑み政党は党派的利害感情を超越し互に協力して眞に敎育委員会の委員たるに適当なる候補者を選び且つこれを支援すべきであるから、本件選挙に際し民主自由党、社会党、民主党、國民協仝党の四党は一應右趣旨に基き適格者の共同推薦を申合せたのであるが事実は各党共右申合に違背し夫々自党の候補者を推薦し党派的行動を採り、敎育委員会委員選挙の精神を沒却するに至つた。

本件選挙は実に以上の如き不公正なる状態の下に行われ被告はこれに対し何等適切なる措置を採らなかつたのであるから、その選擧の管理執行は違法又は甚しく不当であり本件選挙は無効たるを免れない。仍て請求趣旨記載の判決を求める爲め本訴に及んだ次第である。尚原告は本訴提起前東京都選挙管理委員会に対し異議の申立をしなかつたが、右異議申立は必ずしも訴提起の前提として必要なものと解すべきではない、と謂うにある。

被告代表者は主文同旨の判決を求め、敎育委員会法第二十八條において準用する地方自治法第六十六條第一項第四項によれば、選挙の効力に関し異議ある選挙人又は候補者は法定の期間内に当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に対し異議の申立を爲しその決定に不服ある場合にのみ裁判所に出訴し得るものと定められておるのであるが原告はかかる異議申立の手続を践まず直に本訴提起に及んだのであるから本訴は不適法として却下さるべきものであると述べた。

理由

敎育委員会法第二十八條には「委員の選挙については、この法律又はこれに基く政令に別段の定がある場合を除いては、地方自治法に定める普通地方公共團体の議員の選挙に関する規定を準用する。」と定められている。從つて右委員の選挙に関する爭訟に関しては地方自治法第六十六條が準用されるのであるが、同條第一項によれば選挙人は候補者は選挙の効力に関し異議があるときは選挙の日から十四日以内に当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会に対しこれを申立てることができ、同條第四項により都道府縣選挙管理委員会の決定又は裁決に不服がある者は一定の期間内に高等裁判所に出訴することができる旨を規定されているのである。

右規定の趣旨よりすれば高等裁判所に出訴するには、その前提として当該選挙管理委員会に対し異議の申立を爲しその決定を俟つてこれを爲すべきであり、直に裁判所に出訴することは許されぬものと解するを相当とする。尚敎育委員会法第十三條には委員の選挙に関する事務は当該地方公共團体の選挙管理委員会がこれを管理するとあるので、原告が選挙人又は候補者として本件敎育委員会の委員選挙に関する訴を提起するには先ず以て該選挙事務を管理する被告東京都選挙管理委員会に対し異議の申立を爲すべきであつたに拘らず、原告がかかる手続を経なかつたことはその自陳するところであるから、本訴は此の点において不適法と謂わざるを得ぬ、よつて本訴を却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文の通り判決する。

(小堀 二宮 奧野)

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